難燃剤とは
プラスチックやゴム、木材や繊維や紙といった燃えやすい素材に混ぜ込む、または、塗ることで、燃えにくく、また、燃え広がりにくくする機能を持った材料を難燃剤といいます。
赤リン系難燃剤の特徴
赤リンはマッチの側薬として使用されるなど、発火性の高い危険物ですが、可燃性の樹脂に少量の赤リンを混ぜることで燃えにくくなります。
プラスチックが燃えにくくなる仕組み
① 樹脂が燃えることで空気中の酸素と結合し、
炭酸ガス、水、炭が生成されます。
CmHm + O2 → CO2 + H2O + C
② 赤リンは空気中の酸素と水と結合して、
縮合リン酸(リン酸の重合物)となります。
P + O2 + H2O → (HPOx)n 縮合リン酸
③ ①で生成された炭と②で生成された縮合リン酸が混ざって、プラスチックの表面に薄い膜が形成されます。
チャーと呼ばれるこの膜が酸素を遮断することで、火が消えます。
赤リン系難燃剤の特徴
難燃剤には、ハロゲン系難燃剤や金属水酸化物系難燃剤といった種類があります。
これらの難燃剤と比較して、赤リン系難燃剤には下記の特徴があります。
(ⅰ)少量で得られる難燃効果
赤リン系難燃剤は(プラスチックが燃えにくくなる仕組み②)で生成される縮合リン酸に必要なリン(P)分を多く含み、また、リンはすべての元素の中で最も難燃効果が高い物質なので、少量の添加でも効率よく難燃効果を得られます。
そのため、樹脂の物性の低下を極力抑えることが可能です。
難燃効果の比較
PP | PE | PA6 | PA66 | PC | PBT | EP | PF | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
水酸化金属 | 25 | 65 | 50 | - | - | - | 150 | - |
ガラス繊維 | - | - | - | 50 | - | - | - | - |
シリカ | - | - | - | - | - | - | - | 763 |
赤リン系難燃剤 | 5 | 10 | 5 | 5 | 5 | 4 | 15 | 9 |
ポリウレタン樹脂 | - | 4 | - | - | - | - | - | - |
フェノール樹脂 | - | - | - | 20 | - | 20 | - | - |
硬化剤 | - | - | - | - | - | - | 90 | - |
膨張性黒鉛 | 10 | - | - | - | - | - | - | - |
溶剤 | - | - | - | - | - | - | - | 80 |
その他 | - | - | - | - | - | - | 1 | 1.8 |
難燃性UL94(1/16)* | V-0 | V-0 | V-0 | V-0 | V-0 | V-0 | V-0 | V-0 |
*樹脂100部に対する部数。1/16は試片の厚さ(インチ)
難燃化樹脂の電気的特性
下記の表はプラスチックにノーバレッド・ノーバエクセルと未処理の赤リンを別々に添加した際の電気特性値のデータです。
ノーバレッド・ノーバエクセルを添加したものは、体積抵抗率の低下が抑制されています。
掲載データは代表値であり、品質を保証するものではありません。
エポキシ樹脂 | 添加量(部)* | 体積抵抗率ρ(Ω・cm) | |
---|---|---|---|
ρ0 | ρ2000hr | ||
未処理の赤リン | 15 | 1.9×1016 | 7.8×109 ** |
ノーバレッド120+Aℓ(OH)3 | 10+100 | 2.4×1015 | 1.7×1013 |
ノーバエクセル140+Aℓ(OH)3 | 10+100 | 3.7×1015 | 6.1×1013 |
Aℓ(OH)3 | 120 | 2.8×1015 | 1.1×1012 |
無添加 | ― | 3.0×1015 | 5.5×1014 |
体積抵抗率500V.DC/min(70℃、93%RH)
* :樹脂100部への添加量
** :未処理の赤リンのみ1000hr
(ⅱ)少ない毒性と高い安全性
赤リンの毒性は非常に低く、実務上無害な物質です。
火災時の燃焼ガスにはホスフィンが含まれますが、その毒性は相対的に小さいことが実証されています。(→『赤リン系難燃剤の環境影響』)
また、樹脂などでコーティングすることによって品質が安定し、未処理の赤リンに比べて取扱いのしやすいものとなっています。
耐湿性
ホスフィンの発生や電気特性の低下においても改良がされています。
掲載データは代表値であり、品質を保証するものではありません。
自然発火温度
ノーバレッド・ノーバエクセルは未処理の赤リンに比べて自然発火温度が高く、安定しています。
掲載データは代表値であり、品質を保証するものではありません。
・未処理の赤リン : 250~260℃
・ノーバレッド : 300~350℃
・ノーバエクセル : 300~350℃
打撃発火性
ノーバレッド・ノーバエクセルは未処理の赤リンに比べて打撃発火性が低下し、ノーバクエルは更に打撃発火性が低下しています。
掲載データは代表値であり、品質を保証するものではありません。
高さ | 10 | 20 | 30 | 40 | 50 | ~ | 100 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
未処理の赤リン | × | ○ | |||||
ノーバレッド120 | × | × | ○ | ||||
ノーバエクセル140 | × | × | ○ | ||||
ノーバクエルST100 | × | × | × | × | × | × | |
ノーバクエルRX | × | × | × | × | × | × |
試験方法: 試料1gを乳鉢に入れ乳鉢の高さを変えて打撃発火点を調べる。(乳鉢及び乳棒は鉄製、乳棒重量1.8kg)
○印...発火 ×印...発火なし
(ⅲ)相乗効果で高まる難燃性能
他の難燃剤、特に吸熱効果の高い金属水酸化物系難燃剤と併用することで、高い難燃性を得ることができます。
掲載データは代表値であり、品質を保証するものではありません。
樹脂名 | ノーバレッド (phr)*1 |
金属水酸化物 (phr)*1 |
OI | 難燃性UL94 (1/8)*2 |
---|---|---|---|---|
EVA | 0 | 0 | 21 | HB |
5 | 0 | 23 | V-2 | |
0 | 100 | 24 | V-2 | |
5 | 100 | 50 | V-0 | |
PP | 0 | 0 | 19 | HB |
10 | 0 | 20 | V-2 | |
0 | 150 | 29 | HB | |
10 | 150 | 38 | V-0 |
*1 樹脂100部に対する部数
*2 1/8は試片の厚さ(インチ)