はじめに
化学物質を使うということは、いずれも何らかの危険や有害性があります。化学物質そのものの危険性や有害性の高さだけでなく、化学物質に触れる量や期間とともにリスクを評価しなければ、別のリスクを招く恐れがあります。
赤リン自体は、消防法上危険物第二類として扱う必要がありますが、マスターバッチ化により非危険物とすることが可能です。また、毒性は低く、これによる健康リスクは無視できます。
国内外において、赤リン系難燃剤の使用を禁止あるいは制限する規制はありません。
赤リンは環境的にやさしい難燃剤であり、赤リンから発生する分解生成物の量も極微量で、
通常の使用環境では環境負荷を与えません。
目次
1. 赤リンの規制状況および毒性について
赤リンの規制状況および毒性について
赤リンは「リン」として毒性の高い黄リンと同一番号でCAS(Chemical Abstracts Service:米国化学会 (American Chemical
Society)の情報部門) のデータベースに登録されています。
CAS登録番号で調査した場合は、その項目に「赤リン」が該当するかを確認してください。
1.1 国内での法的規制
消防法で危険物第二類として可燃性固体(着火しやすい固体や低温で引火しやすい固体)に指定されています。(指定数量100kg)
労働安全衛生法では危険物(発火性のもの)に指定されています。
1.2 国外での法的規制
RoHS(欧州連合(EU)による危険物質に関する制限についての指令)では、有害物質としての規制対象外です。
1.3 アセスメント
ドイツ環境庁
Research report 204 08 542(old), 297 44 542(new)
(マイクロカプセル化)赤リン:環境的難燃剤として使用に問題無し。
1.4 急性毒性
ラット経口LD50 15,000mg/kg以上と、実務上無害とされています。食塩のラット経口はLD50 3,000mg/kgです。
1.5 許容濃度
日本産業衛生学会(2016)
設定されていない。
その他の無機および有機粉塵として、吸入性粉塵2mg/㎥,総粉塵8mg/㎥。
1.6 発がん性
日本産業衛生学会(2016)・IARC MONOGRAPHS VOL.1~116(2016)
Regulation(EC)No 1272/2008(CLP00)
いずれにも報告無し。
2. 分解生成物の毒性
赤リン系難燃剤は、極ゆっくりですが分解してホスフィンやリンのオキソ酸を生成します。
分解生成物による影響を考慮しても、赤リン系難燃剤の環境影響はありません。
2.1 分解生成物の許容濃度
ホスフィン | リン酸 (リンのオキソ酸の例) |
参考 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
塩素 | ホルムアルデヒド | ||||||||
CAS登録番号 | 7803-51-2 | 7664-38-2 | 7782-50-5 | 50-00-0 | |||||
許 容 濃 度 |
日本産業衛生学会 (2016) |
最大許容濃度 0.3ppm 0.42mg/㎥ |
1mg/㎥ | 最大許容濃度 0.5ppm 1.5mg/㎥ |
|
2.2 加工時の作業環境
製品貯蔵中に容器内にホスフィンがたまることがありますので、容器内のガスを吸わないよう配慮が必要です。
赤リン系難燃剤を用いて合成樹脂を成形、加工する場合に発生するホスフィンは極微量です。通常、工場内は常時換気され、必要箇所には局所排気装置が設置されています。このような環境下では労働環境の許容濃度未満となります。
弊社赤リン系難燃剤マスターバッチ製造工場においても、押出機ダイス口付近から離れるに従い急激に濃度は低下し、ダイス口から15cm離れると0.05ppm未満となり、許容濃度を下回ってます。
2.3 難燃化製品使用時の環境
赤リン系難燃剤を含有した製品から発生するホスフィンは極微量であり、労働環境の許容濃度をはるかに下回り、日常生活においても安全です。更に、ホスフィンは容易に酸化され、最終的にリンのオキソ酸や無機リン酸塩となります。
また、赤リン系難燃剤を含有した製品から発生するリンのオキソ酸も極微量であり、人体に影響を与えるレベルではありません。
2.4 火災時の有毒ガス
火災時の燃焼ガスの毒性は、樹脂固有から発生する有害ガス(CO,HCN,HCl等)の影響が高く、ホスフィンによる毒性は相対的に小さいことが実証されています。
2.5 廃棄による環境影響
赤リン系難燃剤を含有した製品は、水中では次亜リン酸、亜リン酸、リン酸等、極微量のリンのオキソ酸を生成し、最終的にはリン酸やその塩へと変化します。埋め立てられた場合でも水生生物に影響を与える濃度とはならず、一般的なプランクトンの栄養源として吸収されたり、土壌中の無機物と水不溶性の塩(Ca塩やMg塩等)を形成し固定化される等、自然環境中で吸収されます。 水環境へのリンの負荷源は、自然的なもの、肥料や農薬、畜産排水、家庭排水でかなりの部分が占められています。使用比率、水への溶け難さを考えれば、赤リン系難燃剤による富栄養化を問題視することはナンセンスです。富栄養化については、 排水に焦点をあて社会全体で積極的に取り組まれています。
3. もっと詳しく知りたい方へ
日本難燃剤協会リン部会関連資料
1)「リン系難燃剤の富栄養化に関するポジションペーパー」(2006.07.01) http://www.frcj.jp/docs/rin/ppaper_f.pdf
2)「赤燐からのホスフィン発生試験報告書」(2006.01.18)http://www.frcj.jp/docs/rin/007.pdf
3)「赤リン系難燃剤より発生するホスフィンについて」(2005.09.01)http://www.frcj.jp/docs/rin/phosphine.pdf
4)「リン系難燃剤の相対的毒性の概要」(2004.12.03)http://www.frcj.jp/docs/rin/004.pdf
5)「赤リン系難燃剤の安全性について」(2004.09.09)http://www.frcj.jp/docs/rin/001.pdf
消防研究所報告
6)「赤リン難燃剤含有合成樹脂燃焼時のホスフィン等の毒性」消防研究所報告第80号p.30-35(1995)
燐化学工業㈱社内資料
7)「赤リン系難燃剤の環境に対する安全性」(1999.03.15)
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